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独特の目線でイタリア・フランスに関する出来事、物事を綴る人気コーナー
witten by Akio Lorenzo OYA
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文と写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

 

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「ムルティプラ・フィアット」後期型と初代「フィアット・パンダ」の残骸。202110月シエナで撮影。

 

日本では近年「廃墟」「廃線跡」系コンテンツの人気が高い。いっぽう、イタリア在住の筆者が惹かれるものといえば、廃車とそれがある風景だ。そこで今回は、近年撮影した写真をご覧いただきながら、なぜ廃車に魅力があるのかを考えてみたい。

 

■放置してしまう理由

まず、廃車が発見できる場所を確認してみる。当然ながら第一は、車両解体工場のヤードだ。なかでも赴きがあるのは、廃業してしまったと思われるところだ。そうした場所に置かれたクルマは、まったく処分されないものだから、風化されるがままになっている。

 

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シエナ県の廃車ヤードで。202310月。

 

次は市内だ。イタリアでは都市部・地方部を問わず、公共の場所に放置された自動車を頻繁に見かける。盗難など犯罪の匂いがするものあり、意図的に置き去りにされてしまった車両ありである。

 

理由は、ひとえに行政の対応が追いつかないためだ。処分するには、放置車両を発見した警察官が損傷具合や周囲の状況を確認→ナンバープレートを陸運局に照会→ふたたび実地検分という手順を踏まなければならない。判明した所有者が他の自治体に転居していた場合、情報共有が円滑にできないため、さらに厄介になる。死亡していた場合も、撤去手続きが複雑になる。ナンバープレートに紐づけされた自動車税の督促が、捨てた所有者のもとに届くまでには、かなりの時間がかかる。由々しき問題であるが、「捨てた者勝ち」なのである。

 

ちなみに、そうしたクルマは何者かによって部品が勝手に持ち去られていることが多い。初代「フィアット・パンダ」は、あっという間にさまざまなパーツが無くなることからして、放置車はちょっとした人気車のバロメーターでもある。

 

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初代フィアット「プントSX」。2021年撮影。


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初代「ルノー・クリオ」。赤い車体は退色が激しいため、劣化感が倍増する。2022年撮影。


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2000年登録の「レクサスIS200」。ウィンドウには、「警察に届け出済です。事件ではありません。すみません」という、持ち主によると思われる張り紙があった。2022年撮影。


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スクーターも放置車が多い。「アタラ・バイト50AT50」は1997-99年の製造である。サドルには盆栽のごとく、苔がむしている。2022年撮影。


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シエナ旧市街で。手前右は「ピアッジオ・リバティ」。20225月。


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20231月シエナの公園で。「ベネッリ」のモペッドが土に還ろうとしている。


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「ランチア・イプシロン」。ナンバープレートを見ると1300km以上離れたシチリア島のトラパニで登録された車両であるところからして、どこか怪しさが漂う。シエナで2020年撮影。

 

個人の敷地に放置されている場合もある。イタリアでは1990年代末から複数回にわたり環境対策車への買い替え政策が施行され、各回とも下取り車の提供を条件に奨励金が受給できた。そのため、放置される車両は格段に少なくなったとみられる。また、不動状態の車を廃棄する場合、解体工場までの搬送費用は自治体によって無料となる場合が多い。

 

ただし、登録抹消費用として、印紙代32ユーロ、(長年この国で公共機関的役割を果たしている)イタリア自動車クラブ手数料13.5ユーロ、陸運局への手数料37ユーロ(地方によって違いあり)の合計82.5ユーロを要する。円換算で14千円だ。取るに足らない金額ともいえるが、廃車が生じる状況というのは大抵の場合、事故直後だったり、代替車を購入する。時間・出費ともに消耗が激しい時期である。繰り返しになるが、ナンバープレートに紐づけされた自動車税の督促も、すぐには来ない。ゆえに置いておける敷地があれば、つい放置してしまい、時間が経過してゆくのだ。

 

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夏、成長した雑草に隠れてしまっている1台。


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冬、草が枯れると「マツダCX-7」が姿を現した。左前方を破損したようで、テンパータイヤを履いている。


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5代目「フォルクスワーゲン・パサート」と2代目「メルセデス・ベンツAクラス」。


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初代「スバル・インプレッサ」。

 

■嘲笑と、ねぎらいと

なぜ廃車のある風景に惹かれるのかを自己分析すると、ふたつの感情が存在することがわかる。

 

第一は、大なり小さいなり、苦い思いをさせられたクルマに対する思いである。たとえば、あのクルマに抜かされた・煽られたといったものだ。そうしたモデルがタイヤの空気が抜けたままになっていたり、雑草に埋もれていたりすると、「あんなにイキっていたのに、こんな姿になってやんの」という笑いがこみあげてくる。

 

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「クライスラー300Cツーリング」。2021年。


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「アルファ・ロメオ147」。主に車両の右半分を損傷している。202310月。

 

第二の感情は、ねぎらいだ。チャイルドシートやルーフボックスといった、人々の生活に寄り添った「しるし」を見つけるたび、思わず「おつかれさま」と声をかけたくなるのである。下の写真にあるクライスラー「PTクルーザー()」のウィンドウには、初心者を示すPマークが貼られている。恐らく最後のお役目として、誰かの道路デビューを手伝ったのだろう。

 

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フィアット初代パンダ。


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フィアット初代パンダ。車両の下や周囲に草が生えていることは、イタリアの警察にとって放置車両を見分ける目安のひとつという。


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初代「メルセデス・ベンツ Cクラス」。後部にはチャイルドシートが残されている。典型的ユーザー層が高齢者だったことからして、孫でも乗せていたか。


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かつてのフィアットにおける世界戦略車「パリオ・ウィークエンド」。残されたルーフボックスが、現役時代のヴァカンスを思い起こさせる。


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クライスラー「PTクルーザー()」のウィンドウには初心者マークが貼られている。20228月。

 

ふと思い出したのは、シトロエンの伝説的デザイナー、故ロベール・オプロン氏と2003年に初めて会ったときである。当日は彼の代表作である「アミ8」「SM」そして「CX」のファンミーティングだった。参加車両を見渡せる広場で、筆者が本人に感想を求めると、「ネクロポリスのようだ」と答えた。Necropolisとは墳墓である。常に新しいフォルムを追求するデザイナーにとって、たとえ名作とはいえ、また実動状態でも過去の遺物にすぎないのである。

 

参考までに、放置されたクルマたちは、自動車を運転しているときよりも、徒歩であったり、公共交通機関に乗っているときのほうが発見しやすい。とくにハイデッカー型の長距離バスに乗っていると、ガードレールの向こうが見渡せるので、意外なところに廃車の溜まり場が見つかる。

 

近年、たびたび解体工場でパーツを安く譲ってもらっている筆者としては、早16年ものとなる自家用車と同型車をヤード内に発見するたび、「まだまだ部品があるな」と、ほっと安堵の息をついている。

 

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スクールバスの放置車両も発見。シエナで2020年撮影。


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高速パスから見えた、ある解体工場。多くのクルマからは、いかにクラッシャブル・ゾーンが作用しているかがわかる。明らかに燃えてしまった車両も4台確認できる。


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リユース用に回収されたバンパーの前に立つ筆者。

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大矢アキオ ロレンツォAkio Lorenzo OYA在イタリアジャーナリスト/コラムニスト/自動車史家。音大でヴァイオリンを専攻。日本の大学院で比較芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。自動車誌...
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