今週のブログ担当は
G.Sekido です。
今回は、車の性能を示す代表的な値である「トルクと馬力」についてのお話です。
※ 12年前の人気記事(?)【
トルクと馬力、ディーゼルとガソリン 】の続編的な内容も含みますので、宜しければぜひそちらも併せてお読みください。

先月の記事【
BMWの過去から未来へと続く足跡 】にて、今年2月に発表された "BMW VISION DRIVING EXPERIENCE" というBEVのコンセプトカーをご紹介いたしました。
その最大トルクは、BMWによると1,831kgm(18,000Nm)もあるとのことです。
一般的な自然吸気エンジンなら180L!にも相当するようにも思えますが・・・
それについて解説した動画によると、BMWの説明による最大トルク値は「
モータートルクに減速ギア比を掛けている可能性があります」とのことでした。
それについて考察する前に・・・

一般的なエンジン車は、エンジンのクランクシャフトの回転数そのままで、ダイレクトに駆動輪を回している訳ではありません。
ギアボックスおよびデファレンシャルギアによって、回転数を下げています。
例えば320dの現行モデルの場合、8速ATの変速比は1速で5.25から始まり8速で0.64、デフの最終減速比は2.813となっています。
それによって、エンジン回転が4000rpmであれば駆動輪の回転は1速で271rpm程と、約15分の1になります。

坂を上る自転車などでも体感できるように、大きな力でゆっくりペダルを漕ぐ代わりに、適切なギアを選ぶことで小さな力で(すばやくペダルを漕いで)同じ仕事をすることもできます。
「 馬力 = トルク × 回転数 」という関係にあるので、同じ馬力(仕事率)でも回転数を下げるとそれに反比例してトルク値は上がります。
エンジン車の場合は、その性能に応じて変速比や最終減速比を定め、走行状況に応じてギアチェンジすることで、限られたエンジンの性能を有効に引き出すことができます。
例えば320dのエンジンが2000rpm で発揮する400Nmというトルクは、駆動輪においては1速で5,907Nm(136rpm)という大トルク・低回転に変換されます。
※トルク値と回転数が変わるものの、馬力は変わりません。
実際に駆動輪にかかっているトルク値は、エンジン性能として一般的に語られるトルク値の数倍~十数倍になっているのです。(ギアが何速に入っているかによって大きく変わります)

話題は変わって、先日ルノーから発表されたこのBEV(5ターボ3E)の駆動力は最大トルク4,800Nmとのことです。
一般的なエンジン車の最大トルクの値(例えば320dは400Nm)と比べると、とても大きな数値です。
それを伝える記事では「
このあまり見たことのない数字を誤植と思った」とも書かれていて、その数値に懐疑的な報じられ方もしていますが・・・
これらは誤植ではないと考えます。
なぜなら5ターボ3Eは
インホイールモーターを備えていると発表されているからです。
インホイールモーターとは、車輪の内部またはそのすぐ近くに配し、(一般的な定義では)減速せずに直接タイヤを駆動する方式のモーターのことです。
耐久性などの技術的な課題もあってなかなか実用化には至りませんでしたが、ルノーによると「正真正銘のインホイールモーターカーの市販車は、おそらくこれが世界初」とのことです。
「インホイールモーターは、減速機に頼らずに数千Nm級のトルクを発揮することが求められる」とも言えますし、
「そもそも既存の多くの車も、車軸のトルクとしては数千Nm級を発揮している(それが必要である)」とも言えます。
ルノー5ターボ3Eの最大トルク4,800Nmという値は、「誤植」どころかインホイールモーターであれば十二分にありえる大きさだと考えます。
一方、BEVやプラグインを含むハイブリッド車に装備されるモーターの最大トルクを表す際には、一般的にはその
モーター軸におけるトルク値を使っていると思います。
エンジン ~ 変速機 ~ デフ ~ 車軸という関係と同様に、
モーター ~ 減速機 ~(デフ)~ 車軸という構造に分類されると見なし、
モーターの性能とはモーター軸で測るという考え方だと推測します。
ですが(インホイールモーターではない)一般的なEV用のモーターにおいて、減速機がユニットとして一体となっている場合があります。
「モーター軸における最大トルク」はその性能を示す値の一つではありますが、モーターユニットの内部構造の特定箇所における値に過ぎません。
それを性能表記の代表値とすることには違和感もあります。
さらに言えば、インホイールモーターも含んでトルクと回転数の設定の幅が極めて広いモーターについて、
車軸トルクならまだしもモーター軸トルクについて横並びに比較することは、あまり意味が無いとも考えます。(馬力であれば意味があると思いますが)
エンジンであれば、最大トルクを決定づける排気量の違いは数百cc~数千ccとせいぜい1桁レベルですが、モーターの軸トルクの違いは2桁レベルではないでしょうか。
そして、エンジンとモーターではトルク曲線の特性が大きく異なり、レスポンスや加速感も全く違います。
さらに、プラグインを含むハイブリッド車は、走行状況に応じてエンジンとモーターの役割分担が様々に変化するため、従来のような回転数を横軸にしたパワーカーブやトルクカーブというもの自体が存在しません。
結局のところ、
パワートレインが多様化した現代においては、その加速性能は最高出力(馬力)で表記するしかないように思えます。(ハイブリッド車の場合はシステム最高出力)
もし性能表記にモーターの最大トルクも併記するのであれば、
その測定箇所がモーター軸なのか車軸なのかを明記するか、むしろ車軸に統一する必要があるとも考えます。
そしてようやく、話は冒頭のBMW VISION DRIVING EXPERIENCEに戻りまして・・・

この車の最大トルク値1,831kgm(18,000Nm)が、「モータートルクに減速ギア比を掛けている」からなのか、「この車がBMW初のインホイールモーターを備えている?」からなのかは分かりませんが・・・
前述の「320dの1速での車軸における最大トルク5,907Nm」の3倍程の値である、ということは言えそうです。
「ずば抜けた高性能ではあるものの、ありえない程の値ではない」とも言えると思います。
この車については、4月23日~5月2日の期間で開催される
上海モーターショー2025にてさらに明らかになるようなので、それも楽しみです。

なお昨年7月には、
スーパーカー的なフォルムのBMWの試作車がスクープされました。
また
そのホイールにブレーキキャリパーが見えないことから、インホイールモーターを採用しているのではないかとも推測されました。
(インホイールモーターはその径が大きいことから回生ブレーキの効きも絶大で、従来の機械式ブレーキが不要になるのかもしれません)

同じく昨年7月には、BMWが「
ミュンヘンに拠点を置くDeepDrive社と、革新的な電気モーターの路上試験を実施する」ことが公式発表されていました。
「このコンセプトは2つの電気モーターをほぼ1つのユニットに統合することで、エネルギー効率とトルク密度に優れた極めてコンパクトな駆動システムを実現します。従来の電気モーターでは、ステーターが内側または外側のローターのいずれかを駆動しますが、DeepDrive社のデュアルローターコンセプトでは、ステーターが両方のローターを同時に駆動します。コンパクトな設計と軽量なユニットにより、各ホイールハブにそれぞれ電気モーターを搭載したインホイールドライブシステムが可能になります。」
と解説されています。
この説明からその仕組みを伺い知ることは難しいですが、
極めて画期的なメカニズムを創り出しつつあるようです!
自動車のエンジンもモーターもその開発は歩みを止めることは無く、走行性能はさらに進化していくようです!
そしてそこには、今まで以上の「駆け抜ける歓び」があると予想します!!