文 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA
写真 大矢麻里 Mari OYA/Akio Lorenzo OYA

イタリア中部シエナ県の古い修理工場で。「フィアット124」のリアフェンダーと、奥の壁面にはマニエッティ・マレリのサインが。
■花をしおれさせてしまったような
「マニエッティ・マレリ」といえば、イタリア車愛好家にとって懐かしい電装品ブランドであろう。いっぽう近年「マレリ」というと、日本では「経営再建中の」という“枕詞”がついて報道されることが多かったのも、これまた事実だ。
おさらいしておくと、マニエッティ・マレリの始まりは1919年にまでさかのぼる。当初の製品は点火プラグへの電源供給装置として永久磁石を使用したマグネトー式発電機で、創業者エルコレ・マレリとフィアットの折半出資だった。本稿の話題である伝統的ロゴの原型も、同年に制定されている。社業は順調に発展。1970年代から90年代初頭のフォーミュラ1にはチームのスポンサーとして積極的に関与した。そのため今もノーズにMagneti Marelliのサインが記されたマシンを記憶しているファンは少なくない。

1992年のフォーミュラ1「ダラーラF192」の鼻先にも、マニエッティ・マレリのロゴが記されていた。2025年10月、古典車ショー「アウト・エ・モト・デポカ」の企画展で。
コモンレール式ディーゼル燃料噴射やアルファ・ロメオのセミ・オートマチック変速機「セレスピード」の開発にも大きく貢献した。
やがて2018年、フィアット・ブランドを要するFCA(現ステランティス)はマニエッティ・マレリの全保有株を投資ファンドCKホールディングスに売却。同ホールディングスは、先に自社が保有していた旧日産系のカルソニックカンセイ統合し、翌2019年にマレリと社名を変えた。
しかしその後、主要取引先であったステランティスや日産の経営不振により、持株会社であるマレリホールディングスの経営環境が悪化した。イタリア国内工場でも従業員の一時帰休に端を発する労働争議が頻発するようになった。とくに1970年にマニエッティ・マレリが買収したキャブレター会社ウエバーの生産拠点であったボローニャ工場における争議は2025年現在も続いている。

マレリのイタリア国内生産拠点のひとつ、ボローニャ工場。元ウエバーの生産拠点であった。
2022年、東京地裁に民事再生法の適用を申請したのに続き、2025年には米国デラウェア州で連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請。ドイツ銀行などの貸付機関グループのもとで再建が決定して現在に至っている。
2025年11月にはインド南部に新研究開発拠点を開設という、久々に明るいニュースが伝えられた。だが、市場的にも地政学的にもダイナミックに変化する近年の自動車業界ゆえ予断は許されない。
イタリアの自動車関係者がマニエッティ・マレリの現況を知っているか?というと、“フィアット”の手を離れたことはある程度知られている。だが、投資ファンドが介在したこともあり、最終的に日本を本拠とする企業に渡ったことを知る人は限られている。一般人の間ではなおさらだ。
それでも、車体や修理工場に古いマニエッティ・マレリのロゴが誇らしげに掲げられているのを目にするたび、日本にゆかりある筆者は、もらった花をしおれさせてしまったようで後ろめたくなっていた。
同時にいえるのは、日本のメディアがマレリの経営状況を伝えるときは、マレリと社名を変えたときに制定された大きなMの字の新ロゴばかりが映し出されることだ。あの伝統的ロゴは、イタリアでもフェードアウトしてゆくのだろうか?
■健在を確認
そのような思いをめぐらせていた折、DIYセンターなどで懐かしいマニエッティ・マレリのロゴ入バッテリーを見かける機会があった。メガサプライヤーゆえ、こうしたアフターマーケット品は、とうの昔に手掛けなくなっていたのかと信じていた筆者としては意外だった。

マニエッティ・マレリのバッテリー。シエナ県のDIYセンターで2025年撮影。
店頭に並んでいる商品のラベルをもとに調べてみると、コルツァーニという企業が浮上した。マレリのアフターパーツ部門であるマニエッティ・マレリ・アフターマーケット(現マニエッティ・マレリ・パーツ&サービシーズ)は、イタリアの大手自動車部品卸売業コルツァーニ社とバッテリーの独占販売契約を締結していた。調印は2016年だから、マニエッティ・マレリが旧FCAのグループ企業だった最後の時期である。
今日では、バッテリーだけでなく、モーターオイル、添加剤、灯火用バルブ、そしてワイパーブレードといった製品をコルツァーニと展開している。

このモーターオイルもコルツァーニ社とのプロデュースである。2025年撮影。
ついでに記せば、マニエッティ・マレリ・パーツ&サービシーズは、今日でも最盛期の生産拠点であったミラノ郊外コルベッタに本社を置いている。そしてアフターパーツのほか、認定修理工場ネットワーク用の計測・検査機器も展開している。

DIYセンターで。このように他ブランドのバッテリーや商品と並べられて売られていることも。2024年5月。
それらの領域で使用しているのは、コルツァーニとのコラボレーションと同じ、マニエッティ・マレリというフルネームと旧ロゴだ。少なくとも伝統は生きていた。筆者のマレリに対する例の後めたさも、やや収まったのである。

ある刃物研ぎ屋さん。店舗ロゴを考えた人の頭には、きっとマニエッティ・マレリのロゴがあったに違いない。2025年11月、シエナ県で。