文・写真 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA

いつから置かれているのだろうか、2009年登録のフィアット500。
■ルノー・クリオ、ご難
ルノー・クリオ(日本名ルーテシア)の部品盗難がフランスで頻発している。2025年後半から現地メディアによって次々報じられている。狙われているのは、クリオ5といわれる5代目モデルだ。路上や駐車場に置かれた車両だけでなく、車庫で保管されていた車も被害に遭っている。
盗まれた部品の多くは、インターネットを通じて販売されている。「アクテュ・ポワン・エフェンヌ」紙電子版によると、リヨン南郊サンテティエンヌでは2ヶ月に2回部品を盗まれてしまった不幸なクリオ5オーナーもいた。また、フランスの主要テレビ局TF1は、リアシートを盗まれてしまった所有者を報じている。
クリオ5の部品盗難が相次ぐ理由はきわめて簡単だ。同車はフランスにおける最多販売車種のひとつだからである。2025年に10万0101台を記録し、2位プジョー208の7万3092台を大きく引き離した。
ドアミラー、ヘッドランプなど損傷しやすい部品と、リアビューカメラ、タッチスクリーンなどの人気アクセサリーが狙われやすいという。いずれも純正品は高額なため、中古品をインターネット検索するユーザーが多いことも、犯罪を助長している背景にあるとみられている。
いっぽう今回読者諸氏にご覧いただくのは、希少な車が数々放置されているにもかかわらず、意外にも荒らされていない、奇跡的な駐車場である。

ルノー・クリオ5最終型(向かって左)。2025年7月、イタリア・シエナ市内の販売店で撮影。
■空きが目立つパーキングにあった車たち
場所はイタリア北部の一都市にある公共駐車場だ。スロープをともなった立体式で、屋上まで含めると6層になっている。収容台数は630台である。
2025年初夏、偶然訪れた筆者が建物内に入った瞬間に感じたのは、観光地として誰もが知る街でありながら、妙に空いていることであった。同時に驚いたのは、長いこと動かされていないと思う車が次々と現れたことであった。
筆者が車を駐めようとした階にあった赤いフィアット500(312型)は、ナンバープレートからして2009年登録である。埃のかぶり方からして、昨日今日に置かれたものではないことは即座に想像できた。他階も含め場内を回ってみると、メルセデス・ベンツEクラス(W124)をはじめ、ちょっと古い高級モデルが何台も置かれている。500と同様に埃まみれであると同時に、気がついたのは、いたずらされた跡がほとんど見受けられないことだった。

メルセデス・ベンツEクラス W124の後期型。スリーポインテッド・スターは失われているが、それはイタリアで当たり前の光景である。

新車時代から希少だったアルファ・ロメオ166もあった。
愛好家にとってはコレクターズアイテムになりそうなヒストリックカーも発見できた。古い英国ナンバーが付いたMG MGBや1968年モデル以前の初期型ランチア・フルヴィア・ベルリーナといった車たちである。最も驚いたのは、1967年登録と思われるデイムラーV8 250だ。本場英国でも生存台数約1000台といわれる希少モデルである。

新車当時はジャガー・マーク2の姉妹車だったデイムラーV8 250。
どうして駐車場がこうした状態になったのか。まず、なぜガラガラなのかについては、後日さまざまな資料を読むうちに判明した。一言でいえば計画のずさんさと立地のひどさだ。市街地の駐車場不足問題を解消するため、州および市が巨額の費用をかけて建設して2006年に開業したこの施設は、実は新交通システム構想と一緒だった。車を置いて街に行く、いわゆるパーク&ライド用というわけである。しかし、肝心の新交通システム建設開始の具体的目処は、いまだ立たない。駐車場のほうが先にできてしまったのである。
市街地との距離は2.5キロメートル。歩くと優に30分を要する。“陸の孤島”から脱出するには従来の路線バスに頼るしかない。しかも駐車場の営業時間が24時間ではなく朝6時30分から夜の9時までと限られているところも、人々から敬遠される理由になっているのは間違いない。観光地における売りのひとつであるナイトライフを楽しむには、まったく使えないのである。

MGBは錆が結構浮いている。

MGB。英国ナンバーが付いた右ハンドル仕様である。
■“名車”が集まってしまった背景
次に、なぜヒストリックカーが滞留してしまうのかについて考えてみた。第一の理由は料金が1日1ユーロ(約185円)と、今日破格ともいえる料金であることだ。年間料金も設定されていて、こちらも350ユーロ(6万5千円)だ。
屋根付き・場内監視カメラ付きであるうえ、郊外ゆえいたずら目的の輩が市街地より少ないのも保管に好都合なのだ。また、本連載第45回「なぜ廃車に惹かれるのか」に記したように、放置車に関する行政対応が追いつかないことも背景にあるのは明らかだ。追いつかない以上に対策に着手しにくい雰囲気なこともあるだろう。前述のように格安料金ゆえ、明日オーナーが帰ってきて(さすがにジャンプケーブルによる始動は必要そうだが)エンジンをかけ、料金を精算して去ってゆくことだって有り得るのだ。
車種に趣味性が高いのには理由がある。伝統的に一帯は繊維や家具工業を基盤とした、イタリア屈指の豊かな都市だからである。
もちろん、盗難車などの事件性が皆無とはいえないだろう。さらに、オーナーが維持しきれなくなって捨ててしまったとも考えられる。屋外で雨ざらしにするよりも、心が傷まないに違いない。もしくは、病院の駐車場でよくあるように、持ち主に放置の意図はなかったのだが死去してしまった、というケースも考えうる。オーナー本人とは対照的に車に関心がない家族−−イタリアではよくあることだ−−が、ここに生前の愛車があることをまったく知らない…といった場合だってあろう。
冒頭のルノー・クリオのような部品盗難は由々しき問題だ。だが、このようにほぼ無傷で放置されてしまった高級車も、筆者にさまざまな物語を想像させてしまい困るのである。

ランチア・フラヴィア・ベルリーナ。被せておいたカバーが強風で飛んでいまい、ロープのみが残ったのだろうか。隣にはメルセデス・ベンツCLKカブリオレが。

デイムラーV8 250はヒョンデ・テラカンのそばにたたずんでいた。