文 大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA 写真 Akio Lorenzo OYA, Stellantis

■渋谷の夜、銀幕のアルファ・ロメオを語る
Stellantis ジャパンは2026年9月24日夜、東京・渋谷でUna Notte Speciale(イタリア語で特別な夜)と題したイベントを催した。最新の限定車「ジュニア イブリダ スポルト スペチアーレ」と「トナーレ イブリダ スポルト スペチアーレ」の披露を伴ったカクテルパーティーだった。普段イタリアに住む筆者だが、ちょうど東京を訪問していたため参加の幸運に恵まれた。

アルファ・ロメオUna Notte Specialeの会場となった渋谷のトランク(ホテル)キャットストリートで。Ayasa氏が演奏する映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のサウンドトラックで華やかにスタートした。
当日の特別企画は「アルファ ロメオと映画」を語るセッションだった。ゲストとして俳優・フィルムメイカーの斎藤 工氏が登壇。映像作品に関する豊富な知識をもとにトークを繰り広げた。相手役を務めたStellantis ジャパン イタリアンブランド責任者の黒川進一氏も、自らのイタリア在住経験を交えながら、独自の視点で映画観を熱く語った。
アルファ・ロメオと映画についてトークを展開する斎藤 工(中央)、黒川進一(右)の両氏。
2人が最初に紹介したのは、スクリーンのアルファ・ロメオを語るうえで欠かせない1967年のアメリカ映画『卒業(原題:The Graduate)』だった。封切り当時のポスターが投影されると斎藤氏は、初めて観たときサイモン&ガーファンクルによる主題歌の印象が鮮烈だったことを振り返るとともに、主人公ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)が乗る、大学卒業記念プレゼントの「スパイダー“デュエット”」について語った。

アルファ・ロメオ「スパイダー“デュエット”」。アレーゼのアルファ・ロメオ博物館で2026年7月撮影。
続いて紹介されたのは、1969年のイタリア映画『さらば恋の日(原題:Un bellissimo novembre)』だ。『ニュー・シネマ・パラダイス』同様、どこか切ない音楽はエンニオ・モリコーネによる。こちらの作品には初代「33ストラダーレ・プロトーティポ(プロトタイプ)」が登場し、華麗なエグゾースト・ノートでミサの参列者を驚かせる。

アルファ・ロメオ初代「33ストラダーレ・プロトーティポ」。photo: Stellantis
これは筆者の見解だが、『卒業』『さらば恋の日』は、ともに青春恋愛映画で、主人公が前者は父親のビジネスパートナーの夫人との情事、後者は戦後イタリアを代表する女性俳優の一人ジーナ・ロッロブリジダ演じる叔母に恋心を抱く。どうやら禁断の恋にアルファ・ロメオは似合うようだ。
トークイベント後半では音楽ディレクターの田中知之氏が合流。「イタリアのB級映画が面白い」と語る彼は、1968年の『女性上位時代(原題:La matriarca)』を紹介した。こちらはサディズムとマゾヒズムに目覚めた若き未亡人ミンミ(カトリーヌ・スパーク)が展開するセクシーなコメディである。劇中では、彼女の男性遍歴の一人となる男(ガブリエレ・ティンティ)が「ジュリア・スプリントGT」に乗って登場する。筆者が補足すると、『男と女』(1966年)でレーシングドライバーを演じたことで知られるジャン=ルイ・トランティニャンも彼女を診察する放射線医役で出演する。

1960年代のイタリア映画とそのサウンドトラックの魅力を強調した田中知之氏(右)。

「ジュニア・スプリントGT」が登場する『女性上位時代(原題:La matriarca)』を語る。筆者としては機会があれば、同じ作曲家アルマンド・トロヴァヨーリがサウンドトラックを担当した『黄金の七人』についても田中氏と語りたいものである。
■名優は、うまく斬られる
彼らのトークでは『卒業』のエンディング近くで、スパイダー“デュエット”がガス欠で止まってしまうことも話題として取り上げられた。それを基に、ここからは筆者のアルファ・ロメオ観を記したい。名優マルチェッロ・マストロヤンニを見ればわかるように、イタリア映画の二枚目俳優というのは、どこかとぼけた、もしくは抜けたところが味である。そうした意味で、スタイリッシュでありながら最後にガス欠するアルファ・ロメオは、まさに“とぼけた二枚目”を演じているのである。

斎藤 工氏のフォトセッション。60台の限定車「トナーレ イブリダ スポルト スペチアーレ」とともに。冒頭写真は同氏と、140台限定の「ジュニア イブリダ スポルト スペチアーレ」。
同時に筆者の視点からすると、アルファ・ロメオは名脇役でもある。トークショーでは話題に上らなかったが、前述の『さらば恋の日』では、主人公である青年の叔父が別荘まで運転するのは白の初代「ジュリア」標準仕様である。その朴訥な佇まいは、後で登場する33ストラダーレを無言のうちに引き立てている。
こちらもその晩は採り上げられなかったが、さらなる好例が2008年の『007/慰めの報酬』だ。ストーリーの冒頭でダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドの「アストン・マーティンDBS」を追う、敵役の「159」である。ガルダ湖畔で壮絶なカーチェイスを繰り広げた挙句、カッラーラの大理石採掘場で崖から転落してゆく。

アルファ・ロメオ「159」 photo:Stellantis

トークショーの後は、田中氏のDJでイタリア映画サウンドトラックとともに、名産チーズ「パルミジャーノ・レッジャーノ」をはじめとするアペリティーヴォを楽しんだ。
時代劇の殺陣では主役の立ち回り以上に、敵役のアクションがシーンを決める。つまり、斬られ方だ。「159」はイタリアが舞台であることの象徴として登場しながら、満身創痍でパフォーマンスを披露し、最後は銃撃を受けて消えてボンドとDBSを立てる。見事な斬られ役だ。そうした意味でも映画の中のアルファ・ロメオは名優なのである。

「ジュニア イブリダ スポルト スペチアーレ」と筆者。

アフターパーティーはホテルの屋外にある串焼き店「TRUNK(KUSHI)」で、いつ果てるともなく続いた。